薄板溶接の溶け落ちを防ぐポイント
薄板の溶接で悩ましいのが穴あきと溶け落ち。入熱・拘束・継手の三点から、現場で効く手当てを整理します。
2026-10-11
溶け落ちはなぜ起きるか
薄板の溶け落ちは、入れた熱が板の厚みに対して多すぎるときに起きます。板が薄いほど熱の逃げ場がなく、わずかな条件の違いが穴あきに直結します。溶接の始端と終端、速度が落ちるコーナー、部品が細く熱の溜まる箇所で目立ちやすいのが特徴です。
もう一つの大きな要因が、継手の隙間です。突合せでギャップが開いていると、溶けた金属が隙間に落ちて埋まらず、結果として穴になります。レーザー溶接はビームが細いため、アーク溶接に比べて隙間の許容が小さいことを前提に段取りを組む必要があります。薄板は熱の影響が形にも出やすく、溶け落ちを抑えようとすると今度は溶け込み不足になりがちです。この綱渡りをどう安定させるかが課題になります。
入熱は減らすより配り方を変える
単純に出力を下げるだけでは、溶け込み不足で強度が出ません。熱の総量ではなく配り方を変えるのが要点です。
- 速度を上げて通過時間を短くし、同じ場所に熱を留めない
- 連続照射ではなく断続的に入れて、冷える時間をつくる
- ビームを振りながら進める揺動で、幅方向に熱を分散する
- 始端・終端は出力を立ち上げ、立ち下げて段差をつくらない
- コーナーは速度が落ちるため、直線部と条件を分けて設定する
いずれも狙いは同じで、必要な溶け込みを確保しながら一点への集中を避けることです。熱の入れ方を変えるだけで、治具を作り直さずに改善できる余地は、まだ残っていることが多いものです。変更は一度に一つずつ行い、結果を記録してください。複数を同時に変えると、何が効いたのか分からなくなります。
治具と拘束で熱の逃げ場をつくる
薄板では治具の効果が非常に大きくなります。板を確実に押さえて隙間を詰め、熱を治具側へ逃がすことで、溶け落ちと変形を同時に抑えられます。裏側に金属の当て金を密着させると余分な熱を吸い取り、裏側の形も安定しやすくなります。
仮付けは、変形が始まる前に短い間隔で行うのが基本です。溶接順序も一方向に進めるのではなく、対称に飛ばしながら進めると熱が一箇所に溜まりません。押さえの位置が悪いと、逆に隙間を開く方向へ力がかかることもあるので注意してください。治具は溶接後の工程まで見て設計すると、位置決めと検査の手間も同時に減らせます。歪みそのものの考え方は溶接ひずみもご覧ください。
継手の設計から見直す
手当てを尽くしても難しい場合は、継手そのものを見直すほうが早いことがあります。突合せから重ね継手に変える、フランジを立てて板端同士を合わせる、板厚の組み合わせを変える、といった方向です。隙間が避けられない部位では、溶加材(フィラーワイヤ)を併用して埋める方法もあります。
設計側と現場側で早い段階から相談できると、後戻りが減ります。試作の段階で穴があくようなら、板厚や材質の指定も含めて相談の余地があります。量産に入ってから直すより、設計段階で手を打つほうが結果的に安く済みます。継手の種類と向き不向きは溶接継手の基本で整理しています。どの方式や機種が自社の部品に向くかの整理には、機種診断もご活用ください。